『鐘が鳴ると何かを思い出す』とは・・・

Photograph:
西希
Text:
清水柊子

2/1(木)から文化沼で始まる 小幡彩貴個展 『鐘が鳴ると何かを思い出す』
イラストレーターの小幡さんと今回キュレーターとして関わってくれているグラフィックデザイナーの浦川さんとこの企画の話をしたのは、昨年の夏の日。

大変光栄なことに、小幡さんにとっては山梨での初個展。
文化沼を個展場所として選んでくれたからには、地域性に目線を合わせた展示にするのはどうか、と話を進めました。

小幡さんの作業場にて

浦川さんが教えてくれた話で、その昔、文化沼のある山梨県甲府市では「愛の鐘」というのが市庁舎の屋上にあったそう。
かなり近所迷惑な毎夜22時にドボルザークの名曲「家路」が流れる。
その時間に家にいない青少年たちがその「家路」をきいて家庭や父母を想い起し、帰宅するように促す運動の一環がその鐘でした。

現在は、防災無線のテストを兼ねたチャイム放送が毎日各時間に各場所で流れていますが、「ふるさと」が流れていた幼き頃(現在は「甲府市の歌」)、私は鐘の音を合図に、近所の小学校での鉄棒の練習をやめて家路についていたことを、ふと思い出しました。

愛の鐘として継続しているわけではないと思いますが、鐘が鳴る時間はきっと何気ない日常なのに、その音をきいて人は必ず何かを思い出したり、何かを考えたり、自分の中の何かの合図にしているのではないか、と思います。

そんな人の暮らしの一コマを切り取って、小幡さんのイラストで表現することで今回の作品が生まれました。

制作中に小幡さんの作業場に伺って、作業の一つ一つを観させていただきました。
書く所作が美しく、インクをつける時さえも見とれてしまいました。

「ペン入れの時は、息をとめてしまいます。笑」
と小幡さんが言っていたように、穏やかな雰囲気の中で緊張感が走る一瞬一瞬。
小幡さんが感じ取った人の暮らしの様子が細やかで丁寧な作業を経て、作品になっている様子が窺えました。

また今回の展示では、原画4点をはじめ、様々な出力方法12点の作品を印刷しました。

展示で気に入ったイラスト作品を「自分だけのもの」として好きな場所に好きな方法で飾ってほしい、という願いも込めています。
印刷によって浮かび上がる作品の表情一つ一つ見逃さないよう、文化沼にてぜひじっくり見て、連れて帰る作品を決めてもらえたら嬉しいです。

2/1~2/24までの一ヶ月間、タイミングを見つけて遊びに来てください。

ーーー
余談

実は、小幡さんと私は、高校のブラスバンドの先輩後輩の関係でした。
二個上だった小幡さんたちは何をするにもとても大人に見え、洗練されていて憧れの存在でした。
甲府の鐘が鳴る17時。
きっちりときれいな三つ編み姿で優しい音色のクラリネットを吹く小幡先輩の後ろ姿を見ながら、一緒に合奏練習していたことを思い出します。
憧れの先輩と一緒に今回の展示ができることを幸せに思います。

(それから数年後に浦川さんが同じ高校に入ったことは、大人になって出会ってから知りました。)

最後にお二人からのメッセージも載せておきます。

小幡彩貴 SAKI OBATA

「繰り返し鳴るチャイムに繰り返される毎日、またこの時間か、また1日がはじまるのか、またご飯の時間か、また1日が終わるのか、毎日毎日、日々はただ過ぎていくばかりです。 そんな毎日がいいのだなと、アンケート回答をみて、絵を描いてみて、思いました。各地それぞれの定時チャイムのメロディーを思い出していただけたら嬉しいです。」

ーー
illustrator / graphic designer
山梨県甲府市出身。2009年桑沢デザイン研究所総合デザイン学科卒業。2010年~2014年有限会社ナノナノグラフィックスにてグラフィックデザイナーとして勤務の後、現在フリーランスのイラストレーター・グラフィックデザイナーとして活動中。「美術展の手帖」(小学館)装画・挿絵や、その他雑誌、書籍等でもイラスト、デザインを手掛けている。個人作品では季節をテーマにイラストを描いている。

▼Instagram
@obatasaki

浦川彰太(Curation)

「企画にあたって、チャイムが鳴っている時の生活についてアンケートを取りました。当たり前ですが、同じ生活はないことが分かりました。チャイムに気がつく人・気がつかない人。出勤する人・休憩する人・終業する人。ご飯を準備する。こどもを迎えに行く。窓を開ける。誰かを思う。暮らす人の数だけ、チャイムと生活が鳴り響く。

もうひとつ分かったことがあります。チャイムを起点として暮らしを想像すると、普段は見過ごしがちな景色の解像度が上がるということです。あいまいな誰かのまなざしを、作家である小幡彩貴さんは線で捉えます。ただよう輪郭線をゆっくりと掬いあげた実線は、誰もが共感できるナラティブな情景を際立たせます。

少し話が変わりますが、この展示では集めた生活を絵として完成させて開示することを目的としていません。あえて原画を最終成果物として捉えずに、いくつかの出力方法を用意しました。描かれた風景の先にある誰かの暮らしと自身を重ね合わせるかのように、出力方法ごとに表れる豊かな情報を感じ取っていただければと思います。

ここには鐘が鳴る誰かの風景が16枚並びます。今日もどこかでチャイムが鳴り響き、そこで暮らす日々が何事もなく流れることを願って。」

ーー
1992年山梨県生まれ。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。美学校「絵と美と画と術」「描く日々」修了。山梨と東京の二拠点を往来しながら、かくことを主軸に紙媒体を中心とした設計や店舗のアートディレクションなどグラフィックデザイン全般を手がける。武蔵野美術大学非常勤講師。
https://urakawashota.com/
▼Instagram
@uraraaa1

展示詳細

日時

2024年2月1日~2月24日の木~土
13:00-19:00

料金

入場無料・予約不要

場所

文化沼
〒400-0032 山梨県甲府市中央1-7-14パリスビル2F

主催・問い合わせ

文化沼